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関孫六 銀寿ST 和包丁(左利き用)レビュー(出刃150㎜/刺身210㎜) Evolutionary-record

関孫六 銀寿ST 和包丁(左利き用)レビュー(出刃150㎜/刺身210㎜)

この投稿は、私が初めて使った左利き用の和包丁「関孫六 銀寿ST」のレビューだ。

なお、比較対象となるのは今まで使ってきた包丁「関孫六 金寿ST(右利き用)」だけ。魚のさばき方も包丁のメンテナンスも全くの素人なので、プロのレビューに比べると至らない点は多々あると思う。その点はご容赦頂きたい。

その代わり、使い込んだ結果を正直にお伝えしていく。参考になれば幸いだ。

銀寿ST 仕様

一連のテストで使用した銀寿ST(出刃150mm/刺身210mm)の仕様を簡単に紹介しておく。
なお、仕様については峰厚を除き製造メーカーである貝印のウェブサイトから引用した。商品ページは、下記リンクから見ることが出来る。

【銀寿ST 出刃150㎜(左利き用) 商品ページ】
https://www.kai-group.com/store/products/detail/6512

【銀寿ST 刺身210㎜(左利き用) 商品ページ】
https://www.kai-group.com/store/products/detail/6517

銀寿ST 出刃150㎜(左利き用)

※このテーブルは右にスクロールする。

項目 仕様
製造メーカー 貝印株式会社
刃材 ハイカーボンモリブデンステンレス刃物鋼
天然木
本体サイズ 283×56×23.5mm
重量 171g
峰厚(実測) 刃元:4mm 中心:4mm 先端:3mm

比較対象となる金寿ST(出刃150㎜・右利き用)との違いは、重量。金寿STの重量は242gで、銀寿STより71g重い。

この重量差は何かと考えてみたのだが、その理由の一つに刃の厚さがあるようだ。金寿STの峰厚は刃元:5mm 中心:5mm 先端:4mm となっており、銀寿STと比べると数字以上にゴツく感じる。

峰厚の比較(金寿ST/銀寿ST)

銀寿ST(左)と金寿ST(右)の峰。厚さ1mmの差なのだが、目視では全く違う厚さに見える。

銀寿ST 刺身210㎜(左利き用)

※このテーブルは右にスクロールする。

項目 仕様
製造メーカー 貝印株式会社
刃材 ハイカーボンモリブデンステンレス刃物鋼
天然木
本体サイズ 330×33×19mm
重量 87g
峰厚(実測) 刃元:2mm 中心:2mm 先端:1mm

刺身包丁(以下、「柳刃」と表記)も、比較対象となる金寿ST(刺身180㎜・右利き用)との違いは重量にある。金寿STの重量は119gで、銀寿STより刃渡りが30mm短いにもかかわらず、32g重い。

しかし、金寿STの峰厚を測ってみると刃元:2mm 中心:2mm 先端:1mm となっていて峰厚だけを見れば銀寿STと同じ。では何が違うかと言うと、金寿STの場合は平や鎬筋といった和包丁の伝統的な構造を保っているのに対して、銀寿STにはそれがない。峰から刃先まで平らにカットされている感じだ。

【金寿ST】

金寿ST(刺身180mm)の刃

金寿ST(刺身180mm)の刃の断面。平や鎬筋の存在が明確に分かる。

【銀寿ST】

銀寿ST(刺身210mm)の刃の断面図。

銀寿ST(刺身210mm)の刃の断面。一枚板のような作りになっていることが分かる。

ご覧の通り、金寿STと銀寿STでは刃の構造が大きく異なる。柳刃の場合は重量差の一因として、構造の違いが影響しているようだ。

…この構造の違いが、メンテナンス性に大きく影響してくる(詳細は後述)。

銀寿STのメリット

「左利きの人間が左利き用の包丁を使うと、こんなに楽に・綺麗に魚をさばけるのか…!」

という感動を、約8,000円(出刃と柳刃の合計金額)という低価格で体験出来る。
これが銀寿STを購入する最大のメリットだ。

私のように右利き用の出刃&柳刃包丁を無理矢理左手で使っていた人間にとっては、左利き用の包丁を使った作業はまさに別世界そのもの。さばきやすさは格段に向上するし、仕上がりも良くなった。

「利き手に合った包丁を使うだけで作業時間は短縮し、品質もアップする」

この事実を銀寿STは私に教えてくれたのだ。

左利き用の包丁を使うメリット

左利き用の包丁を使うメリットを一言で言えば、「包丁の刃と裏が当たるべきところに当たるから」と言える。左利きの人間が左手で魚をさばくとき、左利き用の包丁/右利き用の包丁各々の刃と裏が魚のどこに当たるかを下表にまとめた。

※このテーブルは右にスクロールする。

包丁の部位 出刃 柳刃
左利き用 右利き用 左利き用 右利き用
切り身
切り身

三枚おろしを例に挙げれば分かり易いが、左利き用の出刃を使うと刃は骨に当たり、裏は身に当たる。無駄なく身を削ぎつつ、骨を切断するには刃が骨に当たっている方が圧倒的に作業しやすく、仕上がりも綺麗になる。

刺身を引く際も同様で、左利き用の柳刃を使えば刃は柵に当たり、裏は引いた刺身に当たる。引いた刺身の身離れも良くなるし、柵に変な力を掛けて変形させるようなことも無い。

銀寿STのデメリット

包丁研ぎが難しいこと。言い換えれば、メンテナンス性に難があること。
その理由は、裏すきが感じられない(出刃・柳刃とも)こと。そして、鎬筋が感じられないこと(柳刃)。この2点だ。

裏すきを感じられない(共通)

銀寿STは、裏を研ぐと裏全面に研ぎ傷が付く。

銀寿ST裏面

銀寿STの裏面。裏すきが無いので、裏全面に砥石が当たっている。

この事実は、裏すきが無い。または極めて浅いことを意味している。裏すきがあれば、真ん中が砥ぎ傷だらけになることは無いからだ。

ちなみに、今まで使っていた金寿STの裏は下の画像の通りだ。

金寿ST(裏面)

金寿STの「裏」。ところどころ傷が入っているが、裏すきがあることが分かる。

初めて買った包丁なので、あちこちに傷が入ってるし裏押しもやり過ぎだとは思うが、包丁の裏全体が傷だらけになっていないことだけはお分かり頂けるだろうと思う。

和包丁に裏すきがある理由やその効能についてはあちこちで語られているので、ここでは敢えて触れない。だが、それ以前にカエリ取りの度に裏が傷だらけになっていく包丁というのは、見ていてとても痛ましいものがある。

鎬筋が感じられない(柳刃)

柳刃は、裏すきに加えて鎬筋も感じられない…と言うか、見るからに鎬筋が無い。新品時に鎬筋や刃線がある様に見えるのは、塗装またはサンドブラストによるものだ(研ぐとなくなる)。

初めて研いだ時、鎬筋が分からないので刃先に砥石を当てて(当てたつもりで)研いだところ、刃先どころか表全面が砥げてしまった。そこで表全面にマジックを塗り、再度刃先に砥石を当てて研いでみた。

銀寿ST(柳刃)の鎬筋チェック①

表全面にマジックを塗り、刃先を研ぐつもりで砥石に当ててみる。結果は?

何度か砥石を当てた後、包丁を見てみる。結果は下の画像の通りだ。

銀寿ST(柳刃)の鎬筋チェック②

砥石を当てた状態。表全体に砥石が当たっていることが分かる。

刃先を研いだら(研いだつもりが)表全面が砥げてしまった…ここから分かることは、平と切り刃の角度差はほぼ無いということ。塗装が剥がれたのでよく確認すると、おそらく一枚板から成形されており、刃は先端に付けているだけ。やはり、鎬筋や切り刃は目視でも触診でも確認出来なかった。

平と切り刃の角度差がほぼ無いということは、研ぐときに自分で角度を付ける必要があるということ。よく、「10円玉何枚分」等と言われる「あれ」だ。

洋包丁の研ぎになれていれば問題ないかもしれないが、初心者の場合はどの角度が良いのかを探す必要があるし、実際に角度を維持出来ているのかと悩みながら研ぐことになる。砥石を切り刃に当てて切り刃を研ぎ、その後刃先を研ぐという一般的な和包丁の研ぎとは難易度が全く異なる。

上記の理由から、(特に初心者には)メンテナンスが難しい包丁だと感じている。

銀寿ST 出刃の切れ味/長切れについて

切れ味

鯵、イシモチ、太刀魚、カワハギといった魚をさばいた限りでは、切れ味は普通。
まるで包丁に意思が有るかのごとくスーっと切り進んでいくような素晴らしい切れ味ではないが、悪くもない。身を切っていて包丁が止まることはないし、ましてのこぎり引きしたことは一度も無かった。

作業別に言うと、三枚おろしや腹骨のすき取りでは問題は発生しなかった。
アラ処理やカワハギの下処理(角や口を落とす)には弱く、毎回切れ止みが発生。刃こぼれも多発した。刃こぼれの原因は刃元の研ぎ方が悪い可能性も高いが、金寿STよりも脆いと感じた。

ただ、我が家の場合は持ち帰った魚のアラをことごとく使うので包丁にとっては過酷なコンディションと言える。

アラの解体は(ほぼ)行わないというのなら、小型~中型魚をさばいている分にはそう悪い切れ味ではないと思う。

長切れ

アラの解体を行うと一気に切れ止むという点はさておき、それ以外の作業では切れ味の劣化を感じることはなかった。アラの解体はしない(捨てるか、切断せずに使う)なら、そこそこ長切れするはずだ。

銀寿ST 出刃を使ったテスト結果については、以下の投稿を参照頂きたい。

①鯵・イシモチ編

②カワハギ・太刀魚編

銀寿ST 柳刃の切れ味/長切れについて

切れ味

出刃と同じく、普通。のこぎり引きすることなく、一発で刺身を引くことが出来る。
但し、そぎ切りや薄造りにした場合は身離れが悪いと感じた。裏が感じられないことが影響しているのだろうか?

長切れ

鯵・イシモチ・カワハギ・太刀魚については当日の消費分全てを問題なく刺身に出来た。切れ止み等による中断は一切無し。もちろん、刃欠け/刃こぼれ等も一切無かった。研ぎも、日頃は仕上げ砥だけで十分だ。

家庭で刺身専用に使う分には、ストレスなく作業が出来る程度の長切れ性能はあると思う。

銀寿ST 柳刃を使ったテスト結果については、以下の投稿を参照頂きたい。

防錆、衛生面について

出刃/柳刃ともにステンレス製なので、普通に手入れ(使用後は洗剤で洗い、乾いたふきんやキッチンペーパー等で水気をしっかり拭き取る)していれば錆の心配はない。

洗ってから30分程度放置してしまったことが何度もあるが、それでも錆は全く発生していない。錆に神経質にならなくても良いのはステンレス包丁の大きなメリットだ。

但し、衛生面は少しばかり気を遣う必要がある。柄と中子とのつなぎ目が開いているからだ。
使っているうちにつなぎ目は締まり、ほぼ気にならなくなったが、新品のうちは結構なすき間が空いていた。なので、つなぎ目から食品等が浸入しない様、注意する必要がある。

また、使っているうちにすき間はほぼ無くなるとは言え、水はどうしても浸入する。なので洗う際には包丁を上に向けたまま水を掛けないなど、柄の中に水が溜まらない様に気を遣う方が良いと思う。

総括

銀寿ST (左利き用)を一通り使ってみた率直な感想を述べてみようと思う。
まずは「向き・不向き」から見ていこう。

どんな人に向いているか?

まず、大前提としては体長40cm以下の小型~中型魚をさばく機会が多い人だ(刃渡りが短いので、体高のある魚や大型魚には不向き)。その上で、

・とにかく左利き用の包丁を使ってみたいという人。
→今すぐ左利き用の包丁をテストしてみたいと思ったら、銀寿STを選択肢に加えてみて欲しい。
貝印製なので、ほぼ即納のはずだ。

・予算が無い人。
→出刃と柳刃両方買っても8,000円強なので、低コストで調達出来る。

・何らかの理由で、少しでも軽い包丁を使いたいという人。
・アラ処理はほとんど行わない人。

これらの条件に当てはまる人には向いていると思う。
鯵・シロギス・鯖などの骨がそう硬くない魚の処理がメインなら、最初の1本として問題なく使えるはずだ。

こんな人には向かない

反対に、銀寿ST 出刃(150㎜)が向いていない人は下記の条件に当てはまる人だ。率直に言うと1つでも当てはまれば、別な包丁を選んだ方が後悔しないと思う。

・これから包丁研ぎを覚える段階の人。
→裏や鎬筋が明確な包丁の方が圧倒的に研ぎ易い。

・自分の道具は長く大切に使いたいと考えている人。
→裏が傷だらけになる(柳刃の場合は表も)ので、愛着が湧きづらい。

・アラ処理の頻度が多い人。
→研ぎ方でカバー出来る可能性はあるが、刃もちは良くない。

但し、銀寿STのようなエントリーモデルよりもグレードが上の包丁となると、鋼またはV金や銀紙等の高級ステンレス鋼で作られた包丁が候補になる。当然コストも上がるし、メンテナンスもシビアになることは留意しておきたい。

結論:エントリーモデルとして、検討に値する1本

銀寿STは、「価格が安く・調達しやすく・扱いやすい」というメリットを持っている。これらのメリットは、和包丁を初めて使う人にはとても有り難いものばかり。エントリーモデルとしては価値ある1本だと思う。

そもそも「左利き用和包丁」はタマ数が少なく、価格も右利き用の1.5倍程度のものが多い。試してみようと思っても結構ハードルが高いのだ。こうした実情を考慮すると、銀寿STの存在価値は大きい。

率直に言って、どんな魚でも楽にさばける訳でもないし、素晴らしく長切れする訳でもない。「一生ものの相棒にはならない」と評価する人も相当数いるだろう。だが、逆に言えば銀寿STを使うことで「自分が包丁に求めるものは何で、優先順位はどうなっているのか」が明確になるはずだ。

よって結論としては、「左利き用の和包丁を初めて使う人にお勧めしたい1本」としておく。

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